プラットフォームという概念が、ネットワーク社会やネットワーク産業を語る上で重要である、という認識はすっかり定着したように思います。プラットフォームが何であるかについてはさまざまな定義がありえますが、本ラボラトリでは「誰もが明確な条件で提供を受けられる商品やサービスの供給を通じて、第三者間の取引を活性化させたり、新しいビジネスを起こしたりする基盤が提供される場合、その商品やサービスをプラットフォームと呼ぶ」と定義します。たとえばブラウザなどは、多くの企業や個人が他者とつながるプラットフォームになっていますし、クレジットカードも多くの事業者と消費者をつなぐプラットフォームとなっており、それらなしには今日のネットビジネスは考えられません。本ラボラトリはこのように今日の経済、社会において極めて重要な役割を演じているプラットフォームについて、いかに設計すれば、創造的かつ持続的に運営が可能になるかを研究することを目的に立ち上げたものです。
検索エンジン、音楽配信サイト、OS、ERPソフトウエア、など代表的なプラットフォームをあげていくと、少なくともネットワーク産業において、プラットフォーム形成に影響力を持つことが、企業戦略上も国としての産業競争力を高める上でも極めて重要であることがわかります。プラットフォームを他社に握られたままの状態では、個々の機器などでよい技術を持っていても、なかなか主導権がとれず利益を上げられないというのが、日本の産業界がここ15年ほど経験してきた課題だったと考えられます。これは根源的なところでネットワークの持つ価値が、多様な要素をつなぐところにあり、プラットフォームのつなぐ機能が、付加価値の根源となっているからだと考えられます。プラットフォーム研究を行うことが日本の産業競争力強化を考える上で決定的に重要であると考えるゆえんです。
より概念的なレベルで、ネットワーク概念に加えて、プラットフォーム概念が必要なのは、ユビキタスに何でもつなぐネットワークが存在するだけでは、現実の社会的、経済的なつながりが生まれにくいからであると考えられます。例えば信頼の問題があります。誰でも匿名でつながってしまうインターネット上では、そのままではなかなか廻りあった相手を信じることはできませんが、双方がクレジットカード会社と契約を持っていることが確認できれば、売買に必要な信用は成立します。このように、プラットフォームは物理的なネットワークが存在するだけではつながりにくい主体間に、共通の語彙、文法、文脈、規範などを提供することによって、つながりを活性化しつつ、秩序を守ることを可能にし、創造的で生産的な空間を提供します。本ラボラトリではこのようなプラットフォームの持つ本質的な特性を分析し、より良い設計を行うことに資することを目指します。
大学という場を利用して、産業界が企業を超えて必要とするプラットフォーム形成の媒介となることも目指します。技術標準の確立や基盤技術の共有など、特定企業だけでは利害が錯綜してなかなか進展しないようなテーマについて、中立的な大学で共同研究を行い、技術を社会的な資産として有償・無償の公開をしていただくことが可能です。
プラットフォームを持続的に提供するためには、プラットフォーム形成と維持をめぐるインセンティブやガバナンス構造の設計も重要なテーマとなります。当ラボではプラットフォーム提供を私的なビジネスとして行っている存在を「プラットフォーム・ビジネス」と呼んで、特別の注意を払っています。プラットフォームは多くのつながりを作ることを目標とする分だけ、外部性が強く、公共財としてしか提供されえない場合もあるのですが、それではなかなか持続させることが難しくなりますし、競争の中でよりよいプラットフォーム設計を目指すことも起こりにくくなります。そこでプラットフォームの生む価値を内部化して、ビジネスとして成立させるビジネスモデル開発が有益なテーマになると考えられます。民間によるクレジットカードなどの例はそれが可能であることを示していますし、検索エンジンなどが無償で公開されながら、有力なビジネスになっているのも参考になります。一般論で言えば、急速に発達しつつある識別技術(ID技術)などは、これまで見えなかった波及効果を可視化することを通じて内部化を可能にする可能性を秘めており、プラットフォーム・ビジネス成立の可能性を大きく広げてくれるものと期待できます。
当ラボラトリでは、このようにプラットフォームについて、その意味、社会的な可能性、そして適切な運営方法など、多面的に検討を加え、よりよいプラットフォームのデザインを社会に提示していきたいと思っております。皆様のご参加をお待ちしております。
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